橘劇団「庚申月夜」

橘菊太郎劇団「庚申月夜」、大五郎さんと新吾さん主演の大好きなお芝居。なんだかうだつのあがらぬが人が良く憎めない親父さんと、親に捨てられた一人の泥棒のお話。感想というかただの気持ちのメモ。

長屋の人たちが家に訪ねてきて、胸触られたお尻触られた、銭湯で…を掴まれて伸ばされた…(ただの下ネタである)と親父さんに迷惑かけられた!と文句をつけに来る。やいのやいののやりとりをして、親父さんの歌う都々逸に終わりが無いのを諭そうとすれば娘と一緒に歌い続けて、わいわいがやがや、親父さんのなんかもうしょーもないような、頼りないような、だめオヤジ…って感じだけどなぜかどうにも憎めない人柄を思わせる場面から、一人の泥棒が部屋に逃げ込んできて話を聞きはじめて話が転換していく。
親に神社の階段に捨てられて、角兵衛獅子の親方さんに育てられて、悪いことして生きていた、そんな泥棒が実は…というお話。

一度だけ新開地で見た。二度目は梅田。一度目の親父さんは新吾さん。二度目は伍代座長。

このお芝居の肝はやはり親父さんの人柄。この役柄の演じ方、感じさせ方一つで心に残るものが変わると思うのだけど、それをとにかく魅力的に、演じるというか、舞台の上に存在して、私たち見るものの心にすっと入ってきてやさしく座ってくれるように親父さんを演っていたのが新吾さん。この役の新吾さんがとっても好き。

冒頭からのやいのやいのの長屋シーン、ずっと親父さんはなんだよぅ〜!ってぶすくれたりしていて、娘さんはゆきえさんなんだけどそれがずっと謝ったりお父さんにぷんすかしたりしててそのやりとりが本当に微笑ましくてかわいいのね。
なんかリアル(リアル父娘)でこうなのかな…って思ってしまって…笑 あ〜こういう父娘いるわ…って感じがすごいのね!!喧嘩みたいなのするしパパのパンツと一緒に洗わないで!!!系なんだけど結局パパも娘大好きで娘もパパ大好きで系な父娘…(?)笑

気の抜けた表情ばっかりの親父さんがまたかわいくて、もうほんとダメダメなのにどうしても憎めない、なんか許しちゃう…し、この感覚が舞台にいる登場人物たちにも共通している感じがして、それがとっても愛おしい。

下手すれば失礼千万な行動していて嫌われ者の役にもなってしまいそうなのに、愛されキャラに思えてきてしまう。
新吾さんのお人柄をすごく詳しく知っているわけじゃないのだけど、このなんだかちゃらんぽらんな感じとなのに憎めない感じがとてもご本人に似合ってるというか…笑、気質が滲んでいる気がして、「演じている」と思えないくらい自然で、そういう舞台での在り方を魅力的だなと思った。
新吾さんの自然体で良い意味で力を抜いていて、さりげなくそこにいてくれるような存在感のある演技が大好きだから。

ゆきえさんと一緒に都々逸歌い続ける(突然拍子木を打ち鳴らし始めるカオスが見られる)のもすんごいかわいくて、その…かわいくてな……ここもうかわいいしか出てこないね!!!!

実は息子な泥棒は大五郎さん。捨てられた、ということに事実上はなるけれど、事故のような形で別れ別れになってしまった父息子。
見ず知らず、今あったばかり、しかも自分の命を脅かしかねない泥棒の独白に寄り添うように耳を傾ける親父さんはとても優しくて。
息子だと気づいて縋るようにする姿は弱々しくかっこわるいくらいで、でもそこに人としての弱さと人の気持ちの情緒が詰まっていて。
泥棒もどんどん弱々しくなっていって、子供のように見えてきて、二人の気持ちがぶつかって、とけあうようになって、複雑な色をしているけれどたしかにあたたかなものが奥深くにある気配に舞台が満ちていて。
気づけばどちらにも感情が入りきってしまってぼろぼろ泣いてしまったのを覚えている。

二人のやりとりの空気感をひっぱっていたのは親父さん、新吾さんで、このやさしさ…お涙頂戴なお話だからってけしていやらしくない、嘘くさくない、かっこつけてもいない、一人の人がそこにぽつんとある、ぽつんとある一人と一人が出会い、物語を紡いでいく、そこに人の一人一人の人生がある、自然にそこに在るようなやさしさとあたたかさ、これを舞台に育んでいたのが新吾さんで、一緒に舞台に立ち一人の人の人生を歩んでいる大五郎さんだった。

新吾さんのお人柄のようなが良く舞台を彩っているお芝居だと思う。私は新吾さんという人、知ってる一面なんてそんなに無いわけだけど、そのやさしくておちゃめなお人柄が大好きだったから、そういう色が出たこのお芝居、それをゆきえさんと大五郎さんが受け止めて一緒に物語を紡ぐこのお芝居をとても愛おしく思ってる。

梅田で演じていたのは伍代座長。
これもまた大好きな伍代座長であったわけだけど、口上などで大切に演じなくちゃいけない、演じるのに緊張するといったことをお話してくださっていたのがなんか…不束ながらファンとしてすごく嬉しかった。伍代座長はその背中で大五郎さんを受け止めて包んでくれるようなお芝居するから、なんだか安心して見られたし、とっても素敵な親父さんだったと思う。


いつも劇場や劇場の近くの道やお店でお会いするとにこやかに挨拶してくださって、軽い冗談混じりにやさしくお話してくれる新吾さん、お客さんみんなに気さくに関わってくださって、舞台で泣かせ笑わせてくれて、きよみさんが大好きなのがかわいくて、やっぱり大好きな役者さんだなと思う。

立川での父の日公演、今月の木馬館で三代目が繰り返していた口上でのお話、嘘みたいだけどもうそんなになるんだなと思って、色んなお芝居好きだけど、感想まとめてなかったこれをちょっと書いておこうと思ったので。

三代目が劇場のどこか、客席から見てるかも、時々一緒に舞台に立っているかも!とお話されているのも、役者・水城新吾さんの関わった舞台が板の上に在ることでその息吹を感じられること、ファンはとってもとっても嬉しい。

これまで見た、わずかだけど私にとってはたくさんの舞台をいっぱい噛み締めながら、それでもやっぱりまだまだこれからもたくさん新吾さんの舞台を見られること、まだ出会っていないたくさんの人にも触れてもらえるだろうこと、楽しみに。また劇場で。